野生の蚕が冬眠を続けるために体内で分泌する物質に、がん細胞の増殖を抑える働きがあることを、岩手大農学部の鈴木幸一教授がラットの細胞を使った実験で確かめた。
“眠り薬”ともいえる、この物質の構造を突き止め、人工合成にも成功。今度は制がん剤への応用を念頭に、人に投与した場合の安全面の研究にも力を入れるという。
野生の蚕の一種「天蚕」は冬眠中、体内で細胞分裂を抑える物質の分泌が続く。
鈴木教授は、細胞分裂を抑える効果に着目し、増殖力の強いラットのがん細胞に投与。投与しなかった場合と、細胞の増殖数を比較した。
その結果、この物質を投与すると細胞の活動はゆっくりと低下し増殖は48時間でほぼ停止。
一方、通常のがん細胞は分裂を繰り返して増殖を続け、同時間後の細胞の数は物質を投与したものに比べ、約2.7倍になった。
この物質は天蚕の胸部から分泌され、わずか5個のアミノ酸で構成。
構造の一部を変化させることで、投与直後から増殖を抑える物質の開発にも成功している。
鈴木教授は「物質の構成がシンプルなため、製造コストは低い。安全性の確認はこれからだが、細胞を殺すのではなく、眠らせて増殖を抑えるので、副作用は少ないだろう」と話している。
奈良新聞 2007年3月5日
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