阪大教授らマウス実験
2年後メド臨床応用
中身を抜いて空っぽにしたウィルスの抜け殻が、がん細胞を殺す“司令塔”として働くことを、大阪大医学系研究科の金田安史教授と黒岡正之研究員がマウスの実験で確認した。抜け殻の表面にある物質によって免疫機能が刺激され、がん細胞への攻撃能力が高まるらしい。新しいがん治療法として、2年後をめどに臨床応用する計画だ。1日付の米医学誌キャンサー・リサーチに発表された。
利用したのは、細胞を融合させることで知られるセンダイウィルス(HVJ)。マウスには肺炎を起こすが、遺伝子が働かないよう薬品で処理して、融合能力を持つ抜け殻だけにし、HVJ-Eと名付けた。
これをマウスの皮膚にできた腫瘍に4日おきに注射すると、約3週間後に8割のマウスで腫瘍が消えた。HVJ-Eが免疫細胞の一種である樹状細胞と結合。この細胞が活発に働き始め、リンパ球など他の免疫細胞にがんを攻撃させる信号をたくさん出して、がん細胞を殺していた。
HVJ-Eは細胞に融合するため、薬効物質などを封入し、目的の細胞内に届ける「運び屋」として様々な研究に利用されている。
金田教授は「HVJ-Eの表面には、細胞融合のたんぱく質以外に、樹状細胞を活性化するたんぱく質があるようだ。中に抗がん物質を入れて効果を高めるなど応用範囲は広い」としている。今後、動物実験で安全性を確認した上で、まず膀胱がんを対象に臨床研究を始める予定だ。
読売新聞 2007年1月3日
|